国際整形靴技術者連盟

日本整形靴技術協会

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抄録集Proceedings

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日本整形靴技術協会雑誌 IVOジャーナル 第一巻 抄録

異なるヒール高の靴使用による歩行時の下肢の運動学的分析
― 矢状面を中心に ―
石黒圭応¹ 中山孝¹ 阿部薫²
1)東京工科大学 理学療法学科 (〒144-8535 東京都大田区西蒲区 5-23-22, Ishigurok@stf.teu.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:オーダーメイドで製作した高さの異なるハイヒール靴を8人の女性に履いてもらい,その歩行分析を行った.三次元動作分析器(VICON Nexus),筋電計を使用し,その評価を行った.その結果,ヒール高の増大とともに股関節外旋モーメントが大きくなり,特に0cmと9.0cmにおいて有意な差を得ることができた.それは歩行周期,立脚周期に起こる股関節の屈曲角度がヒール高の増大とともに大きくなり,それとともに大殿筋膜張筋,大腿二頭筋の過緊張が考えられた.J.Perryは“身体の前進は,立脚側下肢の可能性に依存する.身体重量が足関節に載り,力は床に向かう.身体は全身と安定性を保ちながら,この力の方向を変えることで前進する.”と述べている.このように,歩行時に足関節は荷重された下向きの力を関節角度のけんかで前向きの力に変換する.と考えられ,ヒール高の増大はこの下向きの力を前向きの力に変換する過程を妨害しているものと考えられた.
水泳習慣が足部アーチ形成に与える影響
稲岡千秋¹² 阿部薫²
1)株式会社ヤマナミ(〒422-8037 静岡市駿河区下島 324 ヒラガビル 1F, chiaki@8073.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:重力のはたらく陸上での生活習慣により足部形状が影響を受ける.足部は体重を支え推進力を地面に伝える器官としてはたらくが,長時間,成長期にあって水泳習慣のある競泳選手のアーチ形成に与える影響は解明されていない.水泳は水中の浮力の影響を受け,陸上歩行とは異なる運動様式が求められるため,特徴的な足部の発達を呈するのではないかと考えた.そこで週5日以上で,5年間以上継続的に水泳習慣のある競泳選手29名58足を対象に足型計測を行った.足部アーチ高率10%以上の中,高アーチ群が全体の約9割を占め,水泳習慣のない健常者に比較して高い比率が認められた.水泳において下肢推進力が最大となるとき,足関節は最大底屈角度で関節固定肢位(蹴伸び)を強いられる.上肢と下肢による反復運動を行い,足関節は常に底背屈運動を繰り返すことで,足部全体としてハイアーチポジション時間が増加し,足部アーチ高率が上昇したのではないかと推察した.
靴擦れ経験の有無による踵形状の検証
中山憲太郎¹² 阿部薫¹
1)有限会社中山靴店 (〒700-0903 岡山市北区幸町 2-10, Iamanodeken@yahoo.co.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:今まで日本の靴は足長,足囲,足幅のみがJIS規格(S 5037)で明記され,靴型製作ならびに靴選びの指標とされてきた.しかし,JIS規格や世界基準であるISO規格,その他の国の靴の規格項目においてどれも前足部のみが基準とされており,後足部についての基準がない.そのため踵部の靴擦れなどのトラブルを引き起こす原因の一つと考えられる.また後足部についての研究や調査報告は少なく特に踵形状についての研究は非常に少ない.そこで三次元足型計測機(DREAM GP 社 JMS-2100Cu)を用い12歳以上の女性健常者452名904名の足長,足囲,足幅,足高,踵幅,踵突状寸法を計測し,さらに踵部へのトラブル経験の有無をアンケートにより調査した.その結果,踵突状寸法と足長,足囲,足幅,足高,踵幅には相関がなかったが,靴擦れ経験の有無によって踵突状寸法に有意な差があったので報告する.
中足骨間の可動性による前足部の変形特性の予測
-靴適合性向上のための基礎研究-
平山由紀穂¹² 阿部薫²
1)自然療法トータルフットケアサロン アヒナヒナ (〒852-8106 長崎市岩川町 12-9, info@ahinahina.com)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:フットケアサロンに来店する女性には靴による足トラブルの経験者が多い.お客様の足に直接触れるフットケアを行うと,硬い足や柔らかい足などの異なる性質が観察される.これは骨格靭帯系の構造的柔軟性に起因する中足骨間の可動性に大きな違いがあると推測した.中足骨間の可動性を数値化することにより,前足部の変形特性を把握することができれば,前足部変形特性の予測につながり,最適な靴型決定の指標になるのではないか考えた.サロンに来店した女性114名の足部寸法・第1趾側角度および各中足骨間の可動性を計測し,回帰式から算出した外反母趾角15度以上の外反母趾傾向足群と15度未満の正常足群において,各中足骨間の可動性合計と足幅率,第1-2趾中足骨間の可動性足幅率との相関について検討した.また外反母趾傾向足群の40歳未満と40歳以上の群についても検討した.中足骨間の可動性が大きい足は,外反母趾傾向や開帳足傾向が認められ,前足部の変形特性の判断に有効ではないかと考えられた.
成長期における足型計測時のアーチ高率に関する研究
阿部真典¹ 菊池義浩¹ 阿部利行¹ 阿部汐里¹ 前川晃佑¹
1)株式会社東北補装具製作所 (〒960-8153 福島市黒岩字田部屋 44-2, abe.masanori@ gmail.com)

要旨:中学生82名164足(男子49名,女子33名)に1年次と2年次に足型計測を行い,1年次の成長に伴う足部形状の変化を縦断的に比較検討した.計測項目の中でも舟状骨高とアーチ高率に着目し研究を行った.女子は舟状骨とアーチ高ともに有意に低下していた.しかし男子は舟状骨高に有意差は認められなかったが,アーチ高率は有意に低下していた.アーチ高率は舟状骨高を足長で除するため,舟状骨高に変化が少なく足長の成長が大きい場合にはアーチ高率が低くなってしまう.そのため男子は足長が平均で4mm大きくなっていたためにアーチ高率が低下したと考えられた.成長に伴う足部の計測を行う場合,見かけ上のアーチ高率の低下が起こってしまうため,アーチ高率ではなく舟状骨高を比較する必要があるということが判明した.そのため成長過程にある幼稚園児や小中学生の足型計測を行う場合,舟状骨高とアーチ高率の双方により評価することがアーチの骨格構造を評価する上で重要になると考えられた.
立ち仕事でヒールパンプスを常用する化粧品店頭販売員の
足型寸法の特徴に関する研究
荒山元秀¹² 阿部薫²
1)株式会社ドリームジーピー (〒541-0046 大阪市中央区平之町 2-6-5,arayama@dreamgp.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:立ち仕事でヒールパンプスを常用する化粧品店頭販売員の女性459名918足を対象とし,3次元足型計測機を用いて足長,足囲,足幅,足高,踵幅,第1趾側角度を計測した.足長をもとに足囲・足幅・踵幅・足高を基準化し有意差検定を行った結果,足囲・足幅においては,20代と30~40代,50代の3群間に有意差が認められ,加齢とともに扁平化する傾向がみられた.踵幅では20代と30~50代の間に有意差が認められ,加齢とともに拡大する傾向がみられた.足高では20~30代と40代に有意差が認められる傾向であったが,年代別の寸法に大きな違いがみられなかった.大規模データとの比較では,本研究の被験者群は足高が高く,踵幅が広いことが判明した.
軽度の下肢麻痺を有する脳卒中片麻痺者に対する
軟性サポータータイプの短下肢装具の開発
大井和子¹² 阿部薫² 大井博司¹²
1)株式会社大井製作所 (〒602-8004 京都市上京区長者町通新町東入, kazuko@ohi-jp.com)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:筆者らの先行研究により,軽度の下肢麻痺を有する脳卒中片麻痺者が短下肢装具を使用しない例が多い原因として,プラスチック製の装具は固く,歩くと音を発する,かさばるため靴が履きにくい等の問題が指摘された.そこで患者側の要望を取り入れた軟性サポータータイプの短下肢装具を開発した.歩行計測の結果,従来装具と新装具の間には有意差が認められなかったが,主観的評価においては新装具の方が有意に高い評価を得た.これは素材の持つ特性により,フローリングなどの硬い床面を歩行した際に音を発せず,靴の着脱を容易になったことへの評価であり,被験者の装具に対するコンプライアンスは高いと考えられた.装具利用者の生活環境やスタイル,装具着脱の難易性,靴の着脱と適合性,外観,ファッション性についても,自分の意見を言いやすい環境を作ることは医療環境者側の責務であろう.
Investigation of components needed for simple shoes for use in facilities for the elderly
Keiko Nagai¹² Kaoru Abe²
1)Chukyo Hakimono Ltd. (2-23-1 Shinchihigashi-machi, Chita-city, Aich 478-0065 Japan, kookeiko@hotmail.co.jp)
2)Gradute School, Niigata University of Health and Welfare, Japan

Abstract:Subjects were thirty-eight elderly men and women with a mean age of 77.4 ± 6.3 years who had assistance need levels of 1 or 2 and used day-service healthcare facilities for the elderly. Subjects walked a distance of 10 m three times in each of the different pairs of shoes. With Type-4 shoes, Which had an added counter and fold-over instep strap, walking speed, stride length, and cadence all increased. This is thought to be because the heel instability that occurs when there is no counter at the time of heel contact is controlled, and the foot and shoe cohesion is improved with the instep strap at the time of toe off, so that the stride becomes longer and walking efficiency improves. Walking speed is also thought to increase due to the resulting increase in cadence.
表裏両面に滑り止めの構造を有する転倒予防靴下の開発
-床反力とモーメントによる検討-
北澤友子¹ 阿部薫¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, hpm12004@nuhw.ac.jp) 

要旨:日常生活において靴下は屋内外を問わず装着する頻度が高い.特に屋内では靴下の滑りによる店頭が問題視されており,滑り止め加工を施した靴下が多く用いられている.しかし,市販されている靴下は表面に滑り止め機構を有するため床面と靴下は滑らないが,靴下内部で足部が滑って店頭に至るケースが見受けられる.そこで靴下の表裏両面に滑り止め機構を有した転倒予防靴下を開発し,歩行時の床反力成分,および膝関節と足関節のモーメントを比較検討した.ケイデンス110において,表面のみに滑り止め機構を有する靴下に比較し,今回開発した靴下のほうが滑り止め効果が高かった.