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日本整形靴技術協会雑誌 IVOジャーナル 第三巻 抄録
異なるヒール高における静止立位および歩行中の弾性ストッキングの着圧変化
伊藤菜記¹ 阿部薫¹ 北澤友子¹ 笹本嘉朝¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, hpm17001@nuhw.ac.jp)
要旨:弾性ストッキングは,長さや着圧値,ファッション性などの観点から様々なタイプが使用されている.そこで弾性ストッキングを着用し,ヒール高別の静止立位時と歩行時の下腿最大周径部と下腿最小周径部における圧力変化を検討した.対象者は健常女子大生28名とし,弾性ストッキングを着用させ,下腿最大周径部と下腿最小周径部の着圧を測定した.静止立位時の計測時間は30秒間,歩行時は10mの歩行路を自由歩行させた.結果,ヒール高別では5cmと7cmヒールでは最大周径部および最小周径部ともに有意差が認められたが,3cmヒールでは有意差が認められなかった.これはヒールが高いほど下腿筋の膨隆が大きくなるためと考えられた.部位別の比較では3cmと7cmヒールの最小周径部の静止立位時でのみ有意差が認められた.これはヒール高の差が大きく,下腿三頭筋の強い収縮によりアキレス腱の浮き上がり現象によるものと考えられた.
着脱しやすい靴足背留め具としてのストラップのはく離強度の検討
松本典子¹ 阿部薫¹ 北澤友子¹ 笹本嘉朝¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, hpm18002@nuhw.ac.jp)
要旨:手の筋力が低下した高齢者や片麻痺患者が,ストラップ付きケア/リハビリシューズを使用する場合,はがしたストラップが逆戻り再接着してしまい靴が履きづらいことがある.そこでストラップ内に板ばねを入れてストラップが自立し,逆戻りが起こらないように靴を改造した.しかし,ストラップに板ばねを入れると,板ばねの反発力によって,面ファスナがはがれやすくなることが懸念された.このため,板ばね入りストラップの面ファスナのはく離強度を検証するとともに,市販靴のストラップに板ばねを入れ,使いやすさの官能評価実験を行った.はく離試験では板ばね入りの試験用ストラップではく離強度が大きくなり,板ばねの反発力の影響は少ないという結果と,官能評価試験では着脱動作が容易になったとの結果が得られ,ストラップ内に板ばねを入れることで手の筋力が低下した人でも靴の着脱が容易になると考えられた.
小児に対する足底装具の製作方法や構造の違いがアーチ高率に及ぼす影響について
小川淳夫¹
1)㈱松本義肢製作所(〒485-8555 愛知県小牧市大字林210番地の3, a.ogawa@pomgs.co.jp)
要旨:足底装具は内側縦アーチを支持する目的で処方される場合があるがそれが高すぎると傷や擦過傷,痛みの原因になると考えられる.逆に足底装具装着時にアーチ高率が低いと内側縦アーチを十分に支持できず治療効果が十分に発揮できない.アーチ高率の許容限界値が分かれば足底装具の不適合による足のトラブルを未然に回避することができると考えられる.今回,足底装具が処方された小児11人22足に対し,異なる採型方法と足底装具の構造によるアーチ高率の計測と皮膚トラブルを検討した結果,ウィンドラス機構を用いたギプス包帯による採型でEVAを用いてモールドした足底装具により,皮膚トラブルが無く,アーチ高率を向上できることが確認された.また,皮膚トラブルが無いことを考慮すると,今回の対象者においては,アーチ高率の許容限界値の範囲が5%程度であることが示唆された.
傾斜歩行が下肢に与える影響
-矢状面を中心に-
松下和哉¹ 中山孝² 石黒圭応² 飛田諒² 阿部薫³
1)西蒲区整形外科 (〒146-0094 東京都大田区東矢口 3-2-1, h311207689@edu.teu.ac.jp)
2)東京工科大学 理学療法学科
3)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
要旨:勾配薬7°の実験用傾斜路を用いて,平地・上り斜面・下り斜面の環境を作成し,立脚初期-立脚中期の歩行分析を行った.被験者は成人7名とし,三次元動作解析装置(VICON Nexus)および筋電計を使用し,各条件を計測した.結果,平地・下り斜面と比較し,上り斜面にて股関節屈曲角度,大腿二頭筋,前脛骨筋が有意に増大し(p,0.05),特に大殿筋にて著しく増大した(p<0.01).床反力左右成分は平地に比べ上り・下り斜面にて有意に小さくなった(p<0.05).これは上り斜面では股関節を大きく屈曲して斜面に足底接地する必要があり,さらに重心を上方・前方推進するため股関節屈曲,大殿筋,大腿二頭筋,前脛骨筋が強く働いたと考えた.下り斜面では膝関節屈曲,足関節底屈の遠心性収縮を行うことで拮抗筋の抑制が生じ,大殿筋,大腿二頭筋,前脛骨筋の筋活動が低下したと考えた.左右成分は斜面を歩行することで安定性が低下するため,外側方向の分力を小さくすることで安定を図っていると考えた.
足底設置面積と足底全面接触面積の比較
-体表面積に対する比率の検討-
阿部薫¹ 伊藤菜記¹ 北澤友子¹ 蓮野敢² 笹本嘉朝¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, kao-abe@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科
要旨:様々な媒体において「体表面積の1%しかない足裏面積で体重を支えている」と述べられており,そのエビデンスを探したが確定的な文献を探し出すことができなかった.足底接地面積と足底全面接触面積の計測から,浮趾の有無による体表面積比に及ぼす影響を比較し,本当に「足裏の面積は体表面積の1%」なのかを明らかにし,併せて足趾が浮いている面積比を示すことを目的とした.対象は女子大学生30名とし,足圧分布測定器フットビュークリニックを用い,両側裸足で静止立位30秒間の平均接地面積を(両足)接地面積とし,この解析画面から浮趾の有無によって2群に分けた.次に両群ともアーチ部およびPIP/DIP部の隙間をスポンジで埋めて計測したときの平均接地面積を(両足)全面接触面積として,藏澄ら(1994)の計算式による体表面積との比率を検討した.体表面積に対する片足足底設置面積は,浮趾なし群(9名)が平均0.74±0.04%,浮趾有り群(21名)は0.62±0.13%,片足足底設置面積は,浮趾なし群が1.01±0.05%,浮趾有り群は0.82±0.19%であった.接地面積および全面接触面積とも有意差(p<0.01)が認められた.浮趾なし群の接触面積は,片足が体表面積の0.74%,全面接触面積は1.01%となり「(片)足裏の面積は体表面積の1%」の証左が得られた.しかし体重を支持するのは接地面積であるため「体表面積の0.74%しかない(片)足裏で~」と訂正するべきではないだろうか.
通所型介護施設高齢者の足爪の状態と靴選定の関係性
東海林藍¹ 峯田幸悦² 手塚敬一郎² 大場広美¹ 松本典子³ 阿部薫³
1)フットケアセンター山形 (〒990-0067 山形市花楯 1-2-12 ロイヤルビル1階, ai_shouji@hotmail.com)
2)特別養護老人ホームながまち壮
3)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
要旨:高齢者の靴サイズ選定に足爪のトラブルが影響を与えているのかを明らかにすることを目的とし,通所介護施設利用者30名(女23,男7),平均年齢88.9±5.8歳の自立歩行可能な者(杖等使用者含む)を対象とし,足型寸法,施設内で使用中の靴サイズ,爪の状態(巻き爪と肥厚)を調査した.結果,足長サイズが1.5cm以上大きい靴を使用している人は70.0%,巻き爪有り(傾向含む)は86.7%,肥厚有り(傾向含む)が73.3%であった.巻き爪を有する者で足長サイズ1.5cm以上大きい靴を現用している者は73.1%,肥厚爪を有する者で足長サイズ1.5cm以上大きい靴を現用している者は72.7%であった.本研究の結果より,高齢者がかなり大き目の靴を選定している事実と,足爪に問題を抱える高齢者の多さを明らかにするものとなった.足爪の問題の多さを考慮すれば,高齢者の靴選定には足サイズに加えて足爪の状態を確認することが重要だろう.
靴型のヒール高変化による前足部長と踏まず長の変化の検討
蓮野敢¹ 阿部薫² 伊藤菜記² 北澤友子² 笹本嘉朝²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科(〒〒950-3198 新潟市島見町 1398, haa16024@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
要旨:本研究の目的は靴型設計でのヒール高の変化による足長の変化を明確にすることであった.今回はその基礎研究としてヒール高別の足部の実測を行い,段階的にヒール高を変化させたときの前足部長,踏まず長の単回帰式を求めた.また,ヒール高0cm時の前足部長,および踏まず長に対する,ヒール高が1~5cmまでの前足部長,および踏まず長の有意差検定を行った.健常男性14名を対象とし,最長趾先端,踵点,脛側中足点をそれぞれ0~5cmまで1cm毎にヒール高を上げて計測した.踵点から最長趾先端を結んだ線分を足長,脛側中足点と腓側中足点を結んだ線分をボールラインとし,これらの線分が重なる点から,最長趾までの距離を前足部長,踵点までを踏まず長とした.その結果,前足部長では相関のある単回帰式が得られたが,踏まず長では有意な回帰式が得られなかった.ヒール高0cmと,ヒール高1~5cmまでのそれぞれの前足部長,および踏まず長で有意差検定を行った結果,前足部長は,すべての群間で有意差があったが,踏まず長は,すべての群間で有意差はなかった.本研究結果より,中足骨関節面形状が異なることによる前足部長の増加と,ウィンドラス機構による踏まず長の短縮変化があることが推察された.
靴セミナー活動報告
植松茂也¹
1)有限会社 山形義肢研究所(〒990-2332 山形県山形市飯田 5-5-39, shigeya.u@gmail.com)
要旨:靴は現代の生活において必要不可欠なものである.しかし,靴や足への興味は少ない方が多くサイズの違った靴を履いていたり,緩いまま靴を脱ぎ履きする方も多い.そのため靴のセミナーを行い正しい靴の履き方・選び方などを伝えている.内容は2種類あり講義+体験型と計測+相談型である.それぞれ情報の伝わり方や参加人数など制約はあるが,少しずつ効果がでていると考えている.また今後はアンケートをとって内容をブラッシュアップし,重大な疾患につながらないよう予防的な活動を続けていく.