国際整形靴技術者連盟

日本整形靴技術協会

国際整形靴技術者連盟

抄録集Proceedings

他の巻を選択:

日本整形靴技術協会雑誌 IVOジャーナル 第六巻 抄録

下駄の特異的な形状が歩容に及ぼす影響について
松下和哉¹ 石黒圭応² 中山孝² 朝倉都藍² 泉龍太郎³
1)青葉台たけだ整形外科 (〒227-0063 神奈川県横浜市青葉区榎が丘 1-9, h311207689@edu.teu.ac.jp)
2)東京工科大学 理学療法学科
3)日本大学大学院 総合社会情報研究科

要旨:二本歯下駄および一本歯下駄を用いた場合,歩容に対してどのような影響を与えるかを検討す
るため,裸足・二本歯下駄・一本歯下駄の 3 条件について三次元解析装置を用いて,制動期と推進期の運動学的分析を行った.結果,制動期では二本歯下駄においては足関節のヒールロッカー機構を用いて裸足と同様の歩行を行えるが,床反力作用点の前方移動が制限されることによってレバーアームの短縮が生じて関節底屈モーメントが減少した.一本歯下駄ではその形状によってロッカー機能が発揮できないため,足関節の底背屈運動と関節底屈モーメントの柔軟な発揮によって衝撃の吸収を行っていることが示された.推進期において二本歯下駄では下駄自体が前傾し,前歯と前方の台の接地によって支持基底面を形成するため重心の円滑な移動を行えるが,下駄の前傾による足部の不安定性により底屈モーメントが減少した.一本歯下駄でも同様に下駄自体が前傾することによって足関節の底屈運動を代償するが,台と床面との支持基底面を構成できないため床反力作用点の移動制限に伴うレバーアームの減少が生じ,前方への推進力が低下することが示された.
フットプリントを用いた女子大学生の足型寸法・外反母趾・扁平足の実態調査
-2006年と2020年の比較-
叶野愛羅¹ 阿部薫² 蓮野敢² 東海林藍²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, raa19010@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:今日の若年女性は,外反母趾のみならず扁平足や足幅の狭小化により,従来の靴型設計では良好な適合性が得られないと考えられる.本研究では若年女性の,足長・足幅・ウィズ・外反母趾・扁平足の経年変化を明らかにするため女子大学生48名96足の実態調査を行った.200 年の先行研究では18~26歳(82名)の足長は234.3mm,足幅95.4mmで,ウィズはEサイズ,外反母趾出現率は6.1%(10足),扁平足出現率は8.5%(14足)であった.本研究では平均値で足長230.0mm,足幅92.4mm,ウィズはDであった.外反母趾出現率は6.3%(6足),扁平足出現率は14.6%(14足)であった.先行研究と比較して,外反母趾の出現率はほぼ同率であったが,扁平足は増加し,足幅ウィズはEからDへと狭小化していた.これは若年層の体力・運動能力の低下や生活習慣の変化による足の運動量の減少が考えられた.今後もこの傾向は顕著になることが推測されるため,現在用いられている既製靴の基本設計の再検討が望まれる.
3次元足型計測器を用いたヒール高別の内側角度および外側角度の変化の検討
蓮野敢¹ 阿部薫¹ 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, ham20002@nuhw.ac.jp)

要旨:本研究の目的は靴型設計に資するために,ヒール高変化時の足部の捻じれ変形による内側角度および外側角度の変化の法則性を明らかにすることであった.健常女性10名を対象に足部を3D計測し,3Dデータ上で脛側中足点,腓側中足点,踵内側頂点,踵外側頂点にマーカーを設定した.これにより段階的にヒール高を0~5cmまで1cmごとに変化させたときの内側角度および外側角度を算出した.それらについて回帰分析を行った結果,ヒール高の増加により内側角度が増加する有意な回帰式が得られ,外側角度では有意な回帰式が得られなかった.外側角度については,ヒール高変化による足部の内返しに近似した骨格の位置変化が外側角度の増加作用となり,基準線とボールラインの位置関係による外側角度の減少効果が相殺したと推察した.内側角度については,Windlass Actionにより角度変化があったと考えられた.
スポーツ傷害に対する段階的なインソール修正の有効性
-アキレス腱付着部炎と足底腱膜炎の併発例-
岡部咲樹¹ 阿部薫² 蓮野敢² 東海林藍²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, raa19005@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:競技スポーツに起因する傷害は選手生命に大きく影響する.競歩選手の17歳女性でオーバーユースによる右アキレス腱付着部炎と足底腱膜炎を併発し,保存療法となったが陳旧化した症例に対して,状態変化と練習との兼ね合いによりインソール形式を段階的に修正し,良好な予後を獲得することができたので報告する.本来,装具治療は症状の変化に応じて,その形状や機能を変更することになっているが,実際のところすべての症例がその恩恵に浴しているわけではない.故障した競技者にとって治療と練習を継続することは,選手生命の維持に必要不可欠な条件である.このため治療者は十分に要望を聞き,段階的な修正対応が望まれる.
シャルコー・マリー・トゥース病の患者に対するカーボン製支柱・靴付き短下肢装具の検討
植松茂也¹
1)有限会社 山形義肢研究所 (〒990-2332 山形県山形市飯田 5-5-39, shigeya.u@gmail.com)

要旨:今回,シャルコー・マリー・トゥース病の患者に対しカーボン支柱・靴付き短下肢装具を製作した.これまではタマラック継手のプラスチック短下肢装具を使用していたが,足部の変形や下肢筋力の低下により立位の保持等が困難となっていた.また足部がプラスチックのために痛みもあった.そのため,足部を靴としオーダーインソールを作り,足継手はカーボン製支柱(ENAPLE)を使用した.タマラック継手の装具に比べ足部に痛みはなく,扁平足などの足部の崩れも改善した.またタマラック継手からカーボン支柱に変更したことで,立位時に体重をかけやすくなり安定性も増した.日本では屋内外で生活様式が変化するため,プラスチック製の短下肢装具が選択されやすいが,足部の安定性などを考えると,靴とインソールの組み合わせを選択することも考慮する必要があると考えられる.
体格指標を用いた新しい靴選定基準の検討
-足長は身長に,足囲・足幅は体重に比例する-
安松美咲¹ 阿部薫¹² 蓮野敢² 岡部有純¹ 東海林藍²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, raa20044@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:靴選びの指標は主に足長である.しかしその足長だけでは良好な適合状態を得られないことも多い.そこで本研究は身長・体重等の体格が補助指標として靴選択や適合の精度向上に寄与するのではないかと考え,体格と足部寸法の関係性を検討することを目的とした.健常女子大学生60名120足を対象に足部寸法および身長・体重・BMI を計測し分析を行った結果,足長と身長,足囲と体重,足幅と体重の比較で有意な相関が認められた.身長の増加に伴い足長も増加するのは全身の骨が比例的にバランスよく成長するためと考えられ,体重と足囲および足幅の関連性は主に軟部組織の体積によるものと推察した.したがって使用者自らの手で正確に計測することが困難である足幅・足囲も,体格指標から導き出すことができるのではないかと考えられた.足長・足囲・足幅は靴適合において重要な要素であり,体格を考慮した靴選定基準への応用の可能性が示唆された.
痛みを明確に訴えることができない認知症高齢者のフットケアの重要性
東海林藍¹ 阿部薫¹ 蓮野敢¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, hwd21006@nuhw.ac.jp)

要旨:対象者は高齢者施設に入所中の認知症を有する90代の高齢女性.毎日,足の痛みを訴えるも明確に状況を訴えることができず,対応に苦慮していた.両足母趾に肥厚爪を有していたため,足爪ケアを依頼した.両足母趾の爪に肥厚はあるが,特に右足を痛がるとの情報を得て,履物を観察したと
ころ母趾が靴内部に当たる様子がうかがえた.肥厚した爪が履物で圧迫され疼痛が生じたと推察し,肥厚した爪のケアを実施した.また履物を面ファスナ式の足背バンドがついたタイプに交換し,靴内で足が前滑りしないよう適切な履き方の援助を介護スタッフへ依頼し実践してもらった.その結果,痛みの訴えはなくなり,歩行速度の改善もみられた.認知症高齢者は自分の異常を明確に訴えられないという問題があるため,医療・介護スタッフによる全身状態の観察が必要不可欠であり,特に負荷のかかり続けた足部や靴の観察,および爪・足趾などのフットケアが重要であると示唆された.
小趾の回外矯正による小趾回外角度の変化とバランス機能改善効果の検討
中林功一¹ 阿部薫¹ 蓮野敢¹ 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, ham19002@nuhw.ac.jp)

要旨:本研究は小趾の回外変形に着目し,小趾の回内外中間位への矯正が身体のバランス機能に与える影響を明らかにすることが目的であった.対象は足部に異常のない女性11名とした.小趾の回外矯正には,非伸縮性で幅15mmのテーピングテープを使用し,矯正角度は被験者が痛みを伴わない最
大角度とした.COP総軌跡長は開眼片脚静止立位時の重心動揺を30秒間計測して算出した.自然立位時の小趾回外角度および小趾回外矯正時の角度と,両条件におけるCOP総軌跡長について統計分析を行った.その結果,自然立位時の小趾回外角度は55.6±10.5°で,小趾回外矯正時では35.0±12.7°であった.また小趾回外角度の比較およびCOP総軌跡長の比較において有意差が認められた.本研究結果より小趾回外の矯正角度の範囲が明らかとなった.また小趾回外矯正により筋の走行を変化させ,第5趾の足趾把持筋力を増強しバランス機能改善に効果があったと推察された.
ヒール靴におけるヒール高変化時の美的印象と足寸法変化の関係性の検討
蓮野敢¹ 阿部薫¹ 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, ham20002@nuhw.ac.jp)

要旨:本研究ではヒール靴の目の錯覚による効果の足長方向の変化に着目して,段階的にヒール高を変化させたときの各足部寸法変化を明確にすることを目的とした.健常女子大学生12名24足を対象に,被験者の肢位は両足裸足で静止立位時の足部を3D計測した.3Dデータをもとに直線距離,前足
部長,踏まず長,足底長,足部投影長,踏まず投影長を計測し,ヒール高が0~5cmまで1cmごとに変化させたときの足部寸法を算出した.その結果,直線距離,前足部長,足底長,足部投影長,踏まず投影長で有意な回帰式が得られた.結果から,ヒール高の増加によりWindlass Actionの影響が強まり足部特有の寸法変化が見られ,これがヒール靴着用による美的外観を高める効果であったと推察した.
中学生の足と靴サイズの適合調査
阿部真典¹² 菊地義浩¹ 前川晃佑¹ 佐藤駿一¹ 寺川朋恵¹ 永井恵子²
1)株式会社東北補装具製作所 (〒960-8153 福島市黒岩字田部屋 44-2, abe.masanori02@gmail.com)
2)内閣府公認 特定非営利活動法人 WISH

要旨:現代の子供の足部疾患の原因について検討するため,中学生の足と靴の適合状態と外反母趾との関連性を明らかにすることを目的とした.中学生120名240足(男子68名,女子52名)を対象としてデジタルカメラ撮影による足部変形の有無,足長・足幅の計測と靴の内寸を計測した.男子は捨て
寸15mm以上が9名,10mm以上15mm未満が22名,10mm未満が37名だった.女子は捨て寸15mm以上が9名,10mm以上15mm未満が24名,10mm未満が19名だった.10mm以上15mm未満を適正な捨て寸とすると男子54%,女子37%が小さい靴を履いており,男子の方が小さい靴を履く傾向にあった.捨て寸が10mm未満の小さい靴は適正なサイズに比べて,使用している生徒に外反母趾者が増加する傾向があることから外反母趾は靴のサイズが影響していると推察された.足に合わない靴は外反母趾などの足の疾患に関係するが,中学生の約60~70%が不適合な靴を履いていることから,今後適切な靴のサイズを周知していく必要があると考えられた.
大学の靴型装具製作実習におけるインソールの横アーチサポート中心位置の設計
-学生の設計における誤差とその原因の検討-
岡部有純¹ 阿部薫¹² 蓮野敢² 東海林藍²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, raa19004@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:フットプリントを用いたインソール設計において,設計者により顕著なバラツキがみられる点として横アーチサポートの中心位置がある.これは設計に必要な部位の触知が困難であることに起因する.臨床現場で足底装具やインソールの設計・製作を担う義肢装具士は,その基本的な知識と技術を養成校で学ぶ.そこで本研究は義肢装具士養成大学の靴型装具製作実習において,横アーチサポート中心位置設定における正確性の向上を目的に,学生の設計と教員の設計を比較した.学生が設計した横アーチサポート中心位置は足長の近位から63.5±2.9%,横アーチ幅の内側から47.1±3.8%に位置した.教員の設計では各々61.5±2.3%,48.2±3.1%であった.この誤差は母趾球と小趾球の触知確認技術の違いに起因すると考えられた.現状の教育カリキュラムにおいては授業時間数や教員数に限りがあり,正確な手技の伝達や学生の習熟度を高めることはかなり困難である.このため製作実習における講義法の更なる工夫が必要である.
下肢重度熱傷治癒後の肥厚性瘢痕に対するADL向上を目指したフットウェアのアプローチ
阿部薫¹² 吉田桂³ 中林功一¹⁴ 中林知宏⁴ 蓮野敢¹ 岡部有純² 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市北区島見町 1398, kao-abe@nuhw.ac.jp)
2)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科
3)JA 新潟厚生連 豊栄病院 整形外科
4)株式会社 山忠

要旨:症例は71歳の男性,自宅の火災により両下肢熱傷(II~III度)に対し手術(Debridement,左アキレス腱切除,分層植皮術)が施行され退院後に介護老人保健施設へ入所した.左アキレス腱切除のため短下肢装具が処方されていたが,足関節瘢痕拘縮により装具なしで歩行可能であった.肥厚性瘢痕が高度なため,通常の綿製やナイロン製靴下を使用すると,皮膚と繊維の摩擦により出血し,靴下および履物を使用することができず,日常生活に支障があるため入院が長期になっていた.このため皮膚への剪断力を減じるように外層が綿製,内層をシルク製とした二重構造の特殊靴下を開発し良好な使用感が得られた.外出用の履物に対しては靴底をロッカーソールに加工した.これにより足底接地面積が増加し,COP軌跡の解析より踏み返しの出現が確認され歩行速度は上昇した.これらのフットウェアのアプローチによってADLが向上したので報告する.
コロナ禍のイタリア・ミラノ MICAM国際靴展示会参加と現地視察
中村奈穂子¹
1)オートフィッツ吉祥寺 (〒180-0003 東京都武蔵野市吉祥寺南町 1-17-2, info@o-fits.com)

要旨:2021年9月19日(日)~21日(火)の3日間,イタリア・ミラノ市内Rho(ロー)Fieramilanoで開催された国際靴展示会「MICAM(ミカム)」に参加しました.また開催期間に合わせてミラノ近郊の靴ブランド本社を視察しましたので,その様子を含めて現状報告致します.
子どもの足の成長に特化した靴店のコンセプト
須藤千尋¹
1)靴店あしつくる((株)ストウ) (〒305-0817 茨城県つくば市学園の森 1-37-7 TOCOneco1F, ashitsukuru@sutou-kutsu.com)

要旨:2021年7月に弊社新店を開店しました.子ども靴中心の新しいコンセプトの店となっており,そのコンセプトの内容と開店から5ヶ月経った現在の状況を報告します.
これからの靴販売の在り方を考える
永井恵子¹² 坂野佐知²
1)内閣府認可 NPO 法人 WISH (〒478-0065 愛知県知多市新知東町 2-23-1, kookeiko@hotmail.co.jp)
2)くっく靴店

要旨:日本では諸外国と異なり着脱回数が多いことから,履物選定において着脱の容易さが優先され,歩行機能を考慮しないことが多い.不適合な靴は高齢者であれば転倒を引き起こし寝たきりの原因になり,子どもであれば成長の阻害因子となりうる.わが国では履物に関する教育はいまだ十分とはいえないため,消費者が適切な靴を使用するために靴販売店や販売員が担う役割は大きい.変化していく時代のなかで,靴販売はどうあるべきか.これからの靴販売の在り方について考察する.