国際整形靴技術者連盟

日本整形靴技術協会

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抄録集Proceedings

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日本整形靴技術協会雑誌 IVOジャーナル 第五巻 抄録

小児と成人の足底装具アーチ高率の違いについて
小川淳夫¹
1)㈱松本義肢製作所(〒485-8555 愛知県小牧市大字林210番地の3, a.ogawa@pomgs.co.jp)

要旨:足底装具は扁平足や足底腱鞘炎などの疾患に対してアーチ高率を向上させる目的で使用される場合が多い.アーチ高率が高すぎると痛みや傷の原因になると考えられる.逆にアーチ高率が低すぎると,足底装具の機能が十分に発揮できない.本報告では男性6人女性5人,2~8(平均4.9±2.2)歳までの11人22足の小児,整形外科外来に通院する男性3人女性14人,43~77(平均63.6±12.6)歳17人30足の成人で足底装具が処方され歩行が可能な患者を対象とした.足底装具のアーチ高率を計測し比較を行った.その結果,足底装具装着後のアーチ高率は,小児では右足3.20%,左足2.48%増加していた.成人では右足0.29%,左足1.07%増加していた.これらの足底装具を装着することによって傷や痛みが発生せずに使用されているため,許容限界値内のアーチ高率であると考えられ足底装具製作の際の参考値として示した.
足長・MP幅の荷重時と非荷重時の違いについて
-非健常の小児と成人の比較-
小川淳夫¹
1)㈱松本義肢製作所(〒485-8555 愛知県小牧市大字林210番地の3, a.ogawa@pomgs.co.jp)

要旨:成人と小児では関節の柔軟性が異なるとされており,荷重時と非荷重時の足長とMP幅の変化量も異なることが推測される.その変化量を求めることによって,足底装具のアーチ高率設定の際の参考値,および適合評価の基準値や靴サイズを選択する際の参考値になるのではないかと考えられた.本研究では非荷重時と荷重時の変化量を求め,左右差,荷重時と非荷重時の差,小児と成人の違いについて検討を行い,靴サイズ選択の際の参考値と足底装具適合評価の参考値を求めた.小児群の対象者は男性34人,女性21人,年齢2~12歳,55人110足,成人群は男性17人,女性62人,年齢24~85歳,39人78足について計測を行った.その結果,小児,成人ともに足長とMP幅は非荷重時よりも荷重時の方が長かった.その変化量は成人より小児の方が大きく,靴サイズ選択の際の参考値および足底装具アーチ高率の設定の際の参考値として示した.
アンケート調査による高位ヒール靴使用時の転倒つまずきの実態
入野隆仁¹ 丸山仁司² 石黒圭応³
1)済生会湘南平塚病院 リハビリテーション技術科 (〒254-0036 神奈川県平塚市宮松町 18-1, rihabiri@hiratsuka.saiseikai.or.jp)
2)国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
3)東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科

要旨:高位ヒール靴使用時の転倒つまずき状況の把握のため,アンケート調査を行い140人から回答を得た.このうち116人が転倒つまずきの経験者であった.転倒つまずき経験者の約6割が,荒れた路面や小石,斜度のある路面による影響を受けていた.高位ヒール靴使用時の転倒つまずきの経験者と非経験者における各属性の2群間検定では,有意差は認められなかった.主に右足の靴底が摩耗する人と,左足が摩耗する人の転倒つまずき方向に有意差が認められた.どちらの足側が摩耗しても右側に転倒するつまずきする傾向があった.また,主に靴底の外側が摩耗する人と,内側が摩耗する人の転倒つまずき方向に有意差は認められなかった.したがって靴底の摩耗部位よりも,踵部分の接地状態が転倒つまずきに関連があると考えられた.
通所型および入居型高齢者施設における利用者の履物調査
東海林藍¹ 蓮野敢¹ 阿部薫¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, ham19001@nuhw.ac.jp)

要旨:高齢者の通所施設(デイサービス)の利用者31名と入居施設(サービス付き高齢者住宅)の利用者30名の現用の履物を調査し,異なる施設形態における違いを考察した.デイサービスでは高齢者用シューズに次いで,バレーシューズが多く使用されており,サービス付き高齢者住宅ではスリッパが多く使用されていた.デイサービスでは時々使う履物であることから,安価なバレーシューズが好まれる傾向にあり,サービス付き高齢者住宅では生活の場であることから,自宅で使用していたスリッパや自宅に会った靴をそのまま使用している人が多かった.通所施設では「上履きを履く」という認識から靴タイプの履物が使用され,入居施設では生活の場であることから着脱が容易なスリッパ等の履物が使用されているのではないかと推察した.これらの履物は高齢者に最適な履物ではなく,転倒や足トラブルの原因になる可能性が高いことから,利用者と施設職員の履物への意識向上が必要である.
ダウン症候群における扁平足研究の実態
岡部有純¹ 阿部薫¹² 蓮野敢² 東海林藍²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, raa19004@nuhw.ac.jp)  
2)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:ダウン症候群に扁平足が高頻度で出現することはよく知られている.しかし,ダウン症候群における扁平足研究は僅少で,国等による大規模調査も見当たらなかった.この理由にはダウン症候群には心疾患などの重篤な合併症が多く,扁平足治療の優先順位が低いこと,また知的障害を有することが多く,患者自身が扁平足に起因する違和感や疼痛を訴えることが困難であることが予想された.文献調査の結果,有病率においては計測方法や定義の不統一性から19.9~92.0%と70ポイント以上の差異が見られた.ダウン症候群の扁平足は自然にアーチが形成されることは期待できないが,足底板療法により足部通や易疲労感などのトラブルが軽減される.長命化に伴い,加齢による新たなトラブルが増加することが必至である現代では,より一層QOL向上のためのダウン症候群研究の発展が期待される.
3次元足型計測器を用いたヒール高別の前足部長,踏まず長,足幅の変化の検討
蓮野敢¹ 阿部薫¹ 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, ham20002@nuhw.ac.jp)  

要旨:本研究の目的は靴型設計に資するためヒール高の変化による各足部寸法の変化を明確にすることであった.健常女性12名を対象とし,ヒール高別の足部を3D計測し,3Dデータ上で第2趾先端,踵点,脛側中足点,腓側中足点にマーカーを設定した.踵点から第2趾先端を結んだ線分を直線距離,脛側中足点と腓側中足点を結んだ線分を足幅とし,これらの線分が交差する点から,第2趾先端までの距離を前足部長,踵点までを踏まず長とした.段階的にヒール高を0~5cmまで1cm毎に変化させたときの前足部長,踏まず長,足幅の単回帰式を算出した結果,前足部長では有意な単回帰式が得られたが,踏まず長と足幅では有意な回帰式が得られなかった.またヒール高0cmとヒール高1~5cmにおける前足部長,踏まず長,足幅の有意差検定を行った結果,前足部長は2~5cmの比較で有意差があったが,踏まず長ではすべての比較で有意差はなく,足幅は3~5cmの比較で有意差があった.したがって,ヒール高が増加すると前足部長は増加し,足幅は減少するが,踏まず長には変化がないことが分かった.
靴の圧迫による小趾肥厚爪の機序と改善の考察
-フットケアと適切な靴使用によるアプローチ-
東海林藍¹ 阿部薫¹ 蓮野敢¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, ham19001@nuhw.ac.jp)  

要旨:爪の代表的な役割は指先を保護し把持力を増強させることであり,足爪は立位のバランスや歩行時の蹴り出し力を増強させている.足爪は靴の影響を受けやすく,多くのトラブルが報告されており,最も外側に位置する小趾の爪のトラブルは,母趾ほど不便を感じないことから問題視されることは少ない.しかし小趾には歩行時に足の外側から母趾側へ重心を移動させる,足幅を広げバランスをとるなどの重要な役割があり,正常な爪の状態であることは重要である.靴の圧迫による小趾の肥厚爪をケアしたことに加え,適切な靴の使用を指導したことで正常な爪に改善したケースを紹介しながら,靴の内振り設計と内反小趾にも着目して肥厚爪形成について考察した.
女子大学生の足型寸法の変遷
-1987年と2020年の比較-
叶野愛羅¹ 阿部薫¹² 蓮野敢² 東海林藍²
1)新潟医療福祉大学 義肢装具自立支援学科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, raa19010@nuhw.ac.jp)  
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科

要旨:近年,若年女性の足型が年々狭小化してきていると言われており,現在用いられる既存の靴型の幅が広すぎて適合しないというケースがみられる.本研究では靴型設計見直しのための基礎研究として,女子大学生128人(19.1±1.3歳)256足の足型計測を行った.1987年の先行研究では18~19歳(82名)の身長157.4cm,足長229.5mm,足幅92.1mmでウィズはEであり,20~24歳(118名)では身長157.9cm,足長230.0mm,足幅92.0mmでウィズはEであった.本研究では左右の平均値で足長230.4±9.6mm,足幅91.6±6.5mm,足囲225.8±12.3mmとなり,ウィズはDであった.先行研究と比較して,身長と足長の変化はほとんどなく,足幅ウィズは平均値のEからDへ細くなっており,足囲ウィズではDの出現率が最も高くなっていた.これは足を積極的に使用する生活習慣が減少したことにより,足骨格が狭小化したと推察した.現在の20歳前後の若年女性において,従来の靴型では幅が広く適合しないというケースが多いと考えられ,既製品の靴型の改良が望ましい.
異なる足趾分割形状靴下による足趾部圧力と歩行への影響
蓮野敢¹ 阿部薫¹ 田中郁乃² 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, ham20002@nuhw.ac.jp)  
2)株式会社 高崎義肢

要旨:靴下による足趾変形への矯正効果に着目し,異なる足趾分割形状の靴下による足趾部の足圧と歩行への影響を検討した.健常女子大学生29名を対象とし,ピドスコープを使用して足趾の接地状態により,浮き趾群12名と非浮き趾群17名に分類した.靴下の足趾分割形状は先丸靴下,分離型5本趾靴下,一体型5本趾靴下の3条件とし,計測用スニーカーを被験者に着用させ,歩行時の足趾部平均接触圧力,ケイデンス,歩行速度を計測した.浮き趾群と非浮き趾群において各靴下条件間の比較を行った結果,歩行時の足趾部平均接触圧力,ケイデンス,歩行速度のすべてに有意差はなかった.また同一条件間において浮き趾群と非浮き趾群の比較を行った結果,足趾部平均接触圧力の先丸靴下の条件で,浮き趾群<非浮き趾群となる有意差が認められ,分離型5本趾靴下と一体型5本趾靴下,ケイデンス,歩行速度の全条件で有意差はなかった.したがって歩行へのアプローチを行うためには足趾部の分割形状調整を加え,足趾を屈曲方向へ牽引する加工を施す必要性が示唆された.
中足部ベルトを付加した子ども靴による運動能力の向上
永井恵子¹ 鹿見亮太¹ 東條秀和²
1)内閣府認可 NPO法人 WISH (〒478-0065 愛知県知多市新知東町 2-23-1, kookeiko@hotmail.co.jp)
2)広島化成株式会社

要旨:わが国の家屋建築様式の多くは和洋折衷で,玄関で履物を取り換えるため上履きと外履きを必要とする生活様式である.そのため出入りのたびに履物の着脱を繰り返すことになり,特に幼稚園や学校における児童の着脱回数は多くなる.共同生活の時間管理などの理由により,指導者からも着脱の容易な靴が推奨される.子どもの足の成長は早く,靴は消耗していなくても定期的にサイズを大きくする必要がある.さらに子供は成長寸を見込まなくてはならない.着脱が容易であることだけではなく,実際の足長より大きいサイズの靴を適合させる機能として中足部ベルトを付加したところ,立ち幅跳びの計測により運動能力の向上が認められた.
糖尿病患者の足底胼胝部の圧力低減を目的とした靴下およびインソール使用と胼胝切除処置の組合せ効果
阿部薫¹ 吉田桂² 田中葉子² 伊藤菜記¹ 中林功一¹ 蓮野敢¹ 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, kao-abe@nuhw.ac.jp)  
2)JA 新潟厚生連 豊栄病院

要旨:糖尿病患者の足底胼胝は潰瘍形成の要因となるため,靴下やインソールなどのフッとフェアの使用が推奨されている.また胼胝の切除処置は足底圧を低減させる.本研究では中足骨頭部にクッションを具備した靴下,インソール(足底装具)の使用,および胼胝切除処置後の足底圧を計測した.これらにより糖尿病患者の足底胼胝部における圧力低減の方法を比較し,より効果的な治療的手段を検討することを目的とした.対象は糖尿病患者,50歳,女性,左右の第2・5中足骨頭底側部に胼胝を有していた.計測は足底圧測定装置FスキャンⅡを用いて快適速度にて3回歩行させ,第2・5中足骨頭底側部のピーク圧力の平均値を採用した.フットウェアの使用条件は,コントロールとしてノーマル靴下使用,比較としてクッション付き靴下,インソール,胼胝切除+ノーマル靴下,胼胝切除+インソールとした.結果はコントロールと比較して,クッション付き靴下使用での足底圧は14.9%減,インソール使用では61.6%減,胼胝切除では24.7%減,胼胝切除とインソールの併用で62.5%減となった.インソール使用の効果が高かったのは,メタタルザルサポート部が横アーチを支持したためと考えられた.併せて胼胝切除を行うと最高の低減率となったことを勘案すると,足底胼胝を有する糖尿病患者には定期的な胼胝切除を行い,室内ではクッション付き靴下を,屋内ではインソールの常用が推奨される.
小趾回外角度の実態と足部寸法との関連性について
中林功一¹² 阿部薫¹ 北澤友子² 蓮野敢¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, ham19002@nuhw.ac.jp)  
2)株式会社 山忠

要旨:小趾回外角度に着目し,小趾の浮き趾や回外変形を改善するための基礎研究として,各足部寸法との関連性について検討した.足部に異常のない成人女性25名50足を対象として計測したところ,小趾回外角度の平均値と標準偏差は50.7±8.1度であった.小趾回外角度と各計測項目との重回帰分析により,有意な説明変数は年齢,身長,体重,足長,足幅,開張率(足幅/足長)で,有意ではない説明変数は第1趾側角度,第5趾側角度であった.小趾回外角度は開張率と関連があり,第5趾側角度との関連性がなかったことから,小趾外転筋が基節骨を牽引して第5趾側角度を固定し,長趾屈筋と短趾屈筋の収縮による小趾の中節骨と末節骨のみの回外変形が推察された.
救急救命活動に使用される靴の違いが身体負担へ与える影響
山内一¹ 阿部薫¹ 蓮野敢¹ 東海林藍¹
1)新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 (〒950-3198 新潟市島見町 1398, ham19001@nuhw.ac.jp) 

要旨:重度傷病者を自宅(日本式家屋)内から救急搬送する場合,救急隊員は玄関での靴の着脱を要するため,手を使わずに履くことができるスリッポンタイプの救急救命活動靴,または汎用タイプの安全靴を使用している.着脱しやすい靴とは脱ぎ履きしやすい構造とサイズの靴のことで,足と靴の固定性が弱いため,靴の中で足が動いてしまい身体運動効率が低くなり,余分な身体活動が要求されて易疲労性となる.9割以上の救急隊員が救急活動中に身体負担を感じており,適正な靴の使用が求められる.本研究は安全靴,救急救命活動靴,スニーカーを使用して歩行したときの呼気ガス分析により,無酸素性代謝閾値の1分前の時間(AT-1min)を比較したところ,最も身体負荷が大きかったのは救急救命活動靴であった.これらの結果から,救急活動に求められる専用靴の機能について考察した.